目次
開発の経緯
macOS で動作するオープンソースの DICOM ビューアとしては OsiriX が有名であったが、普及するにつれ制限が加わり、商用版との機能格差が顕著になってきた。例えば、OsiriX Lite はソースが公開され、64ビットでコンパイル可能であったが、同包して提供されているライブラリは32ビットでコンパイル済みのものであり、実質的な性能は32ビットに制限されていた。また、ROI に関しては仕様が商用版と明らかに異なり、ネットワーク機能の一部も実装されていない。
このため、OsiriX ライクな DICOM ビューアの登場が望まれていた。
2013年、OsiriX 5.8 のソースコードをベースにして HOROSPROJECT.ORG が中心となり、Horos が開発された。
名前の由来
エジプト神話に登場する Osiris 神の息子 Horus から。
Osiris の肉体は、彼の死後、引き裂かれ世界各地に散らばったが、息子 Horus はその破片を探し再構築することで Osiris の復活を願った。
Horos という名は、この伝説に由来する。
つまり、オープンソースであった時代の OsiriX (Osiris) のソースコードを再構築することで OsiriX 相当の機能を持った DICOM ビューアを再び蘇らせるという意味が込められている。
技術的特徴
Horos の UI などを構成するパーツは cocoa フレームワーク由来であり、そのコードは Objective-C で書かれている。DICOM タグなどの情報は coreData(MacOS の ORM)を経由して sqlite に記録されている。したがって、アプリのユーザに近い部分は MacOS 依存が強い。
しかし、アプリの背後で動作する主要な機能はサードパーティのライブラリが受け持っている。 例えば、DICOM タグの解析には DCMTK などが、3D 画像構築の前処理などには VTK などがそれぞれ使われている。これらのライブラリは標準的な C/C++ で書かれおり、MacOS に依存しているわけではない。また、それらライブラリの構築はもっぱら shell script によってなされている。
なお、OsiriX の open-source version のデータベースの構造は、contributor である猪股弘明氏の手により解析され、簡単な解説とともに公開されている。
horos も同様の構造をとっている。
インストール
Ver 3.0.0 より前のバージョンであれば、Xcode さえあれば、ソースコードからかなり容易にコンパイル・インストールができた。
Ver 3.0.0 以降は、ソースコードの他にサードパーティのツールが必要である。
オープンソース版よりやや遅れてビルド済みのバージョン(以下、インストーラー版)が公式サイトから配信されるのが慣例となっている。
現在(2022)公開されているバージョンでは
Must use XCode 11.3.1, due to runtime errors this will NOT work with versions above.
と書かれている通り、11.3.1 より上のバージョンの XCode ではランタイムエラーのため、ソースコードそのままの形ではビルドできない。
後述する「horos は見捨てられた」「実質的に開発は終了している」とみなされている根拠の一つになっている。
日本語化
従来から OsiriX の日本語リソースを流用して日本語化することがおこなわれてきたが、Ver 3.0.1 よりソースコードレベルで日本語化(正確には多言語化した上での日本語リソースの追加)がなされた。インストーラー版では、Ver. 3.1 より、この結果が反映されている。
しかし、メニューなどは日本語化されているものの、これが原因と思われる 2DViewer が起動しないという問題が発生した。日本語リソース提供者(air-h-128k-il 氏)によると「Xcode 上のバグ」であるという。実際、この時点での Xcode を用いると日本語のみならず他言語でも 2D Viwer が立ち上がらないことが報告されている。上述の air 氏や一部のユーザーが開発元に報告は入れているが、現在(2020年10月)でも特に対応はなされていないようである。
なお、Ver 4.0.0 RC5 では、起動時のビューア部の挙動も日本語版と英語版では異なっている。
community と contributor
@brizolara ,@aglv 氏などが参加。2018年頃にはアクティブにバグフィックスなどをおこなわれていたが、スポンサー企業の開発陣への干渉傾向が強まり、2019 年上半期以降、若干、開発ペースが足踏みしていた。実際、Catalina 対応版は正式にはリリースされなかった。
2020 年 11 月初旬にようやく Big Sur 対応のベータ版(Ver4 RC5)がリリースされたが、対応するソースコードは公開されていない。
また、リリースされたものの、複数枚の画像を含むスタディの場合、表示が遅いなどの問題点が指摘されている。
このような経緯のためか、有力 contributor による別プロジェクトの計画が持ち上がっているようである。
gihub 上の情報からだけでは国籍を完全に特定することは困難だが、日本からはフェイザー合同会社(代表: 猪股弘明氏)関係者が参加している。
なお、OsiriX の日本における販売代理店のニュートン社の菅野氏は「Horos は、ニュートンで開発した OsiriX のカスタマイズ版が元になっている」と公言しているが、Horos 開発元は否定しているし、GitHub リポジトリにもその痕跡は見られない。
ライセンス
現在は、LGPL だが、(たまに誤解されているようだが)プロジェクト発足当初は LGPL より制約の厳しい GPL であった。
horos の各種機能は他の(オープンソースの)ライブラリに大きく依存しており、これらの部分は当然そのライセンスに従わなければならない。horos のアプリ側のライセンスを LGPL ⇄ GPL に変更しても、流用したライブラリのライセンスは影響を受けないため、この変更は本質的な意味を持たない。
派生プロジェクト
HorliX がある。一部のライブラリを除けばソースコードは公開されている。適切にライブラリなどを準備・ビルドすれば、こちらは日本語環境でも 2DViewer は起動する。
非公式サイト
日本でも正規 contributor 以外が配信している一種の「海賊版」が存在するようである。が、Horos 開発元は、公式なものではないので、ダウンロードは控えるように呼びかけている。不審に思ったユーザーが Horos 開発元にメールしたところ、以下の返信が返ってきたという。
(著者試訳)
こんにちは、XXさん
我々の(訳者注:Horos のこと)サイトに関して気がついたことを投稿してくれてありがとう。https://www.horxx.jp というサイトは我々の公式な日本語サイトではなく、ダウンロードしてはいけませんし、 E メールのアドレスをサイトに教えないでください。
これに関して Horos Project に参加経験のある日本人開発者はブログで「Purview というのが Horos Project のスポンサー企業の一つで、本家 Horos Project サイト以外で配布されるのを(日本だけに限らず)嫌っていたのは事実です」とコメントしている。
また、Horos スポンサー企業の出資者は、商標が成立している Horos という名称およびアイコンデザインを許可なしに使っているとして、この事態を批難している。
Is Horos abandoned? (ホロスは見捨てられたのか?)
開発が足踏みしているためユーザーMLで「Is Horos abandoned?」というスレが立っている。
停滞を打破するためには
・contributor へのサポートを充実させる
・寄付という形態を見直す
などの改善案が提案されている。
しかし、2020 の春を最後にリポジトリの更新はされていない。
また、仮に開発が再開されたとしても、近い将来、MacOS で OpenGL が使えなくなることが決まっているため、「アップデートはできたが、MacOS 上では動かない」という事態も想定されうる。
このような事情から、実用的には開発は終わったとみなされている。
Falcon
2024 頃、イギリスの iCat なる会社が「Horos の FDA 承認版が 2/14 に Apple App Store からリリースされる」旨のアナウンスがなされた。
2/14 以降、確かに App Store に新たに Falcon MD なる dicom viewer がダウンロード可能となったが、名称も異なる上、技術的にも Horos とは全く関係のないアプリであった。