医療法人研究 福慈会
以下の記事で書いた情報は古く、その後(ネット上でちょっと話題になりましたが)福慈会は破産しています。
佐鳴湖病院・メンタルホスピタルかまくら山は、(事業譲渡もされずに)問答無用で閉院。
評判悪すぎたからでしょうか。
某所でやっていた医療機関のまとめをこちらでも。
今回は医療法人福慈会。
基本情報
本部所在地 三重県名張市東町1901番地の1
従業員数 648 人
理事長 坂本長逸(さかもと ちょういつ)
(出典など 1)
ただし、埼玉県医療法人福慈会というものもあり、ネット上でも HP も公開している。こちらは夢眠グループと名乗っていて、上の三重県福慈会との関係性がよくわからない。
福利厚生・労使トラブルなど
基本的には退職金はないということなので、長く勤めても労働者にメリットは薄く、離職率の高さにつながっているようです。
また、(特に退職時の)社会保険の手続きがかなりルーズで、退職日以降も資格喪失届が出されていないなどの労使トラブルになっています。
ネット上の評判
全体的に辛めの評価が多い indeed より。
長年働いても有能な社員でも全く評価されず、給与面で全く評価されません。マジメで有能な方は皆辞めていく。
これは辞めていく従業員からの評価としては定型的すぎるか。
医師ではない人が経営しているため、とにかく適当で気に入らなければ医師だろうと看護師だろうと、事務員だろうととにかく辞めさせるクリニックなため、常勤の2/3以上は新人で回している。
また形では常勤医がいるようにしているが実際は常勤医はいない。責任医は名ばかりでほとんど、コメディカルが診断しているクリニック。
行くことはお勧めできません。
こちらの評価は色々考えさせられますね。
ただし、法人の理事長自体は坂本長逸という医師ですから、「医師でない人が経営している」は若干言い過ぎでしょう。
しかし、経営管理などの法人としての主要機能を担う役職を非医師従業員が独占、不適切に管理している、という評価はあちこちで上がっています。
常勤医師としてはあまり勤めたくない法人でしょうか。
非常勤・日当直あたりだったら、気にするほどのことでもないかと。
精神病院運営
福慈会が運営している医療機関はそれなりに多彩だが、精神病院もそれなりの数を運営している(佐鳴湖病院やメンタルホスピタルかまくら山など)。
『医療法人福慈会の謎』という興味深いエントリがあるので、転載。
で、その福慈会、近年は精神科病院の買収に力を入れているようだ。
静岡に佐鳴湖病院という精神病院があったのだが、最近、経営権が福慈会に移ったという。
なお、この病院には以前に(経営がうつる前に)当直にいったことがある。
病院前に広がる佐鳴湖からサワガニくんが当直室にご挨拶しにきてくれたりと自然豊かな環境で、そういった土地柄を反映してか昔ながらの古き良き精神科病院、といった感じで運営されていて特に悪い印象は持っていなかった。
が。。。
今の法人に買収される前は給与や賞与が良かったので、多少のことは耐えられた。しかし、買収されてからというもの、スタッフの質や管理職のレベルなど、何もかもがガタ落ち。建てかえも全く進んでいない。医師も精神病患者のような人ばかり入ってきて、昔と比べると無駄なストレスが多く、すごく仕事がやりづらくなった。
ハード面も設備はレントゲンさえもなし、建物が築70年程と、異常に古くトイレは男女兼用、天井は突然落ちてくる、水道管の破裂や漏電など、人間の過ごすところではなかった。
退職した人の書いたエントリだから、ネガティブな評価になる傾向はあると思うが、それをさっ引いても、納得できる部分がある。
他の病院に面接に行ったとき、面接官に「どうして佐鳴湖病院に勤めたのですか?」と同情するような口調で聞かれました。周りの病院からはそういう目で見られているんだなと感じました。上層部は「変える」とか「改革」とかよく言っていますが、現場に来て何かてこ入れするわけでも全くなく、そもそも精神科の経験がないので、いつまでたっても本質は何も変わらないです。
(引用したエントリはこのページから)
「そもそも精神科の経験がない」という指摘は無茶苦茶わかる。
それなりに運営されていた精神病院が理由なしにここまで落ちぶれるとは思えず、(あくまで推測だが)非医師(幹部)による恣意的な運営(次節↓で詳しく書く)が行われていたのではないかと私は考えている。
ワイ的評価
(精神科限定になるが)医師常勤職はまったく勧めない、日当直はまあまあいいってのがワイの評価。
非常勤は、んーどうなんでしょ。
保護中: 鈴木雄壱という精神科医師
保護中: 阿部生行という看護師と上妻病院と医療ネグレクト
近年の精神科病院運営のトレンド
精神科病院というとキャリアの浅い段階では、大学医局関連病院やある種のブランド病院(松沢とかさ)に目がいくが、数として多いのは私立の精神科病院だ。
指定医や専門医を取った後、こういった施設への就職が現実味を帯びてくる。
中には親の後を継ぐとか医業とは全く異なるキャリアプランを考える精神科医もいるかもしれないが、そういう人でも一時的にこの手の施設には関与するのではないかと思う。
では、そういった施設の具体的な情報がオープンに流通しているかというとそんなことは全くなく、学会などでの伝聞程度でしか内情は伝わってこない。
都心部の病院外来やクリニックのある意味「地雷」職場に関しては某先生が記事にしている。しかし、盗聴なんて誰も想像つかんよね(笑)
精神科関係はなかなか外部第三者の監視が効きにくいので、こういった出鱈目がまかり通りやすい。
で、そういった精神科病院の話。
山奥の精神病院でひっそり行なわれているマイナー療法
最近では滝山病院の出鱈目な運営が明るみに出されて社会問題にまでなった。
ここまであからさまな患者権利軽視の運営をしているところは多くはないが、ベースとしては似たかよったかなのではないか?というのが、私の見解。
けっこう多いのは院長の「専門」とやらをウリの一つにしている病院。
トラウマ焦点化認知行動療法、パラメータ最適化ECT ・・・あたりならいいのだが、ここでいう「専門」は、学会に演題出した程度、せいぜいで内輪でワークショップ開いた程度の「専門」治療なのだ。
かろうじて森田あたりだったら許されるかなあとは思うが、そのレベルじゃないからね(笑)。
「音楽療法を契機に惹起された感性変容を重視した作業療法」とかさ、そんな感じ。
もちろん、こんな治療にエビデンスはない。
困るのは、面接などで「先生は、こういった治療に関心がおありですか?」とか「入職した際には、手伝っていただけますか?」と半ば強要されるところ。
数年前に郊外のマイナーな精神病院を回っていた時に、こんな感じの病院にけっこう出くわした。
いやあ、エビデンスも何もない治療法ってそもそも治療法として成立しているのか?という疑問が沸き起こったが、その場ではなんか適当に返事していたと思う。
後で、丁重にお断りしたけどさ。
そんなに手伝って欲しければ、論文化してエビデンス確立すればいいと思うのだが、スタッフにそこまでの力量はない。
ならば、変に「専門」なんか掲げずに普通に治療していればいいと思うんですけどね。
ああいうのを有り難がって入院する患者(や家族)もいるのだろうか。
個人的には、なんか問題起こって巻き添えくらうのはイヤなので、今のところこの手の病院で働いたことはない。
(追記)よくわからないマイナー療法でも「ギリ森田まで」と上で言っていたが、最近はそうでもない。入院森田はダメなんではないかと思うようになってきた。
ちなみにどんな凝った森田をやろうが保険点数的には入院精神療法の扱いになります。
エビデンスがない、ということはそういうことなんです。
院長傀儡型精神病院
ところで、治療上意味があるか疑問だと上で述べた院長の「専門」であるが
A その院長を雇いれ、「管理者」であり続ける「報酬」のように働く
B その程度の「専門」も持たない医師を抑え付ける(管理する)道具になる
という意味では、組織運営上の意味があるかもしれない。
内輪では、そういう特徴を持つ精神病院を院長傀儡型精神病院などというようになった。
慢性期病棟→認知症病棟コンバートの弊害
ところで、なんで、こんな無理矢理な形でトホホな「専門」を売りにするかといえば、精神科病院への需要が激減しているからだ。
例えば、統合失調症は「100人に1人はかかる疾患」として有名だが、向精神薬の進歩は著しく、入院しなくてもいい「軽症」の人が増えている(統合失調症の軽症化)。
外来で治療が完結している患者さんをわざわざ入院させる必要はないし、そもそも日本の精神科病床の多さは国際的に見ても群を抜いている。
国としても精神科病床は削減したいのだ。
このような状況の中で一つの解決策は「認知症患者の取り込み」だ。
具体的には、統合失調症の慢性期病棟などを認知症病棟にコンバートする。
慢性期病棟→認知症病棟へのコンバートは、最近のトレンドと思われるのでもう少し詳しく書く。
認知症患者の徘徊・暴力はある種の精神科疾患に通じるものがあり、これは一見すると妙案に見える。
実際、まあまあ上手く運営されている施設もあるのだが、私がアルバイトなどで見たところ、全く出鱈目な運営になっているところが多い。
出鱈目な運営になっている施設に共通して見られる特徴は
身体合併症の治療が水準に達していない
点だ。
そもそも統合失調症は比較的若い年齢(10代後半〜20代)で発症する大変経過の長い疾患だ。
陰性症状(自閉・人格水準の低下など)主体の慢性期に移行したとしても、30代〜50代あたりが中心で、この年齢であれば身体症状が問題になることはほぼない(まあイレウスには悩まされますが)。
ところが、認知症病棟となると年齢層としては 60-90代と一気に高齢化が進む。
認知症病棟といっても根幹的な治療方法のない認知症では、病棟で治療に要する時間の大半は、(誤嚥性)肺炎・心不全・腎不全・糖尿病・・・といった身体症状に費やされる。
やってみればわかるが、精神科医の能力より一般内科の能力が求められる。
そして精神科医の多くは身体合併症の治療が苦手なのだ。
もちろん、精神科医だけではなく、看護師・院内薬剤師・PSW といったスタッフも認知症患者の取り扱いには基本的には慣れていない。
「安直に慢性期病棟→認知症病棟のコンバートを進めても上手くいかない」と述べてきたのにはこういった背景がある。
それでも、間違いに気がついて潔く病棟縮小や廃業でもしてくれれば、大きな問題になることもないのだが、まともな医療も提供できないにもかかわらず、「保険医療機関」として事業を継続している施設は多い。
個人的にはそういった施設は「医の倫理」を失っているように見える。
ANN2b
(追記)PSW の質のひどさはあちこちで言われているが、nomad 先生が『DNAR=治療不要とミスリードさせ患者さんに不利益をもたらす困った人たち』でかなり詳しく書いている。興味のある人はぜひ一読を。
病棟コンバートしても看護師さんや薬剤師さんは、時間と共にそれなりに適応していっているように思うが、PSW は適応できない人が多い。
私が思うに
・医学理系寄り(生理学・解剖学・・・)のトレーニングを受けていない
・そもそも基礎学力が低く資格取得後にいくら自己研鑽に努めても必要な知識を習得できない
あたりが原因ではないかと思う。
(追記2)この記事で取り上げられている病院(福慈会 メンタルホスピタルかまくら山)もやはり認知症に手を出して失敗しかけているとのこと。
しかし、センセ、これは流石に ksbk でしょう。。。


