ロナセンテープ上市 -時代は貼付剤?-

以前から錠剤が販売されていた非定型向精神薬ロナセンに、貼り薬、いわゆる「貼付剤」(「てんぷざい」・「ちょうふざい」読みはどちらでもいいようです)が発売された。

ロナセン(ブロナンセリン)は、ドパミンD2受容体サブファミリー及びセロトニン5-HT2A受容体をブロックすることで作用を発揮する。錠剤では割合、容量依存的に素直に効いてくる印象があり(ここら辺はエビリファイとは対照的)、「非定型のセレネース(ハロペリドール)」といった趣があり、私は重宝していた。今回、世界で初めての統合失調症適応の貼付剤として上市されるということで、けっこう期待している。

実際のロナセンテープは ↓ のような形状をしている。

 

一見してわかる通り、吸収量は表面積に依存してそう。しかし、40mg はでかいですな。

ロナセンテープは、湿布のような局所作用型ではなく、薬効成分は皮膚から吸収された後、血流にのって全身に分配される。ただし、貼付剤のため、

・小腸ー肝での初回通過効果を受けない(生物学的利用能が高い)

・嚥下困難な患者に投与できる

といったメリットがある。デメリットとしては、光過敏性があるらしい。

実際、製造・販売元の大日本住友製薬からの以下の 2 点使用上の注意が喚起されている。

①光過敏性があるので、貼っている場所とはがした場所(はかした後1,2週間)に光をあてないこと。

②1日貼っても 5%しか吸収されず、薬剤成分の 95%はテープに残っている(例えばロナセンテープ40mg は 2mg しか吸収されず38mgはテープに残る)ので使用後は折りたたんで廃棄をするように伝達すること。

臨床医としては、認知症の興奮状態に使ったり、効果をコントロールするため切って使ったりしたいと思うのではないだろうか。この点も含めて、一応、大日本住友製薬に問い合わせたところ、以下のような回答が返ってきた。

質問1:ずいぶんテープが大きい(40mg テープは90 [mm]X 85.6 [mm])が違和感はないのか?

回答:違和感はあると思う。

質問2:適応外で認知症に使用することは可能か?

回答:適応は統合失調症のみであり、ほかの疾患に使用することはできない。

質問3:切って使うことは可能か?

回答:そのような治験を実施していない。切って使用することはできない。(とは言ってましたが、下記のようにこちらの意図を説明すると「そこらへんは医師の裁量権でゴニョゴニョ」と言ってました)

質問4:ロナセン錠の添付文書の併用注意の項にはグレープフルーツジュースがあるが、ロナセンテープにはない。なぜか?

回答:ロナセン錠は小腸と肝臓において薬物代謝酵素CYP3A4で代謝される。ロナセンテープは肝臓のみでCYP3A4に代謝される。グレープフルーツジュースは小腸のCYP3A4を阻害する。ロナセンテープは小腸を通過しないため、グレープフルーツジュースによる小腸におけるCYP3A4阻害の影響は受けない。

CYP3A4で代謝されるため、CYP3A4阻害作用(クラリスロマイシン等)や誘導作用(フェニトイン等)を持つ薬物の併用にも注意は必要かな。

 

【補足説明】なぜ、医療関係者が質問2や質問3のような発想をするかといえば、意図的に薬効を抑えたい・血中薬剤濃度を低く保ちたい、という場合があるから。具体的にいえば、高齢者や妊婦に対して使う場合です。高齢者は、薬剤の代謝が若い頃に比べればどうしても落ちてくるので、強い薬を投与するとしばしば「効きすぎ」てしまいます。妊婦さんであれば(特に器官形成期の)薬剤による催奇形性が問題になってきます。このような場合、薬剤が効果を発揮する下限ぎりぎりを攻めなければならないわけです

ロナセンテープは貼付剤ですから、薬剤の血中への移行の主なメカニズムとして濃度勾配による単純拡散のようなものを仮定すれば、それは「貼付剤と皮膚間の接触面積」や「テープ内の薬効成分濃度」に依存すると思われます。だから、あえて切って使ったり(=接触面積を少なくする)、貼り替えの頻度を落として使えばどうなる?(=濃度勾配を小さくする)と考えるわけです。

 

猪股弘明 フェイザー合同会社

医師(精神科) 理学士(物理)

薬剤師国試の実践問題を解いてみました

薬剤師卒前教育は6年制に移行した。以前に調剤薬局ブログ向けに書いた記事をアレンジして再掲。


「今の薬剤師国試ってどうなってるんだろう?」と実際の国家試験の問題をざっと眺めてみました。いやあ、勉強しなければならないことが増えてるんですね (^^ゞ

薬学実践問題というのが目新しい。

おお、ゲフィチニブ。なんですが、問題はゲフィチニブそのものではなく、ゲフィチニブによって惹き起こされたと考えられる肝障害の対応に関する問題。『グリチルリチン酸の副作用ー偽性アルドステロン症』が頭にあれば、問題文にある低 K 血症、高血圧、浮腫の原因はグリチルリチン酸の配合錠と推定でき、選ぶべき選択肢は 1 とわかる。

仮にこれを知らなくても正解は導けそうだ。この症例のプロブレムリストを作成すれば

①非小細胞肺がん ②肝機能低下 ➂低 K 血症 ➂高血圧 ④浮腫、倦怠感

であり、この順番で症状が出現し、その都度、(②以下は対症療法的に)処方がなされている。その点を踏まえて選択肢を吟味すると、、、

1 →それっぽい。保留。

2 →低 K 血症を悪化させるおそれがある。選べない。

3 →降圧薬。高血圧といっても上が 160 程度。重要性は低い。

4 →K 保持性の利尿薬。それっぽいが、保留。

5 →ループ利尿薬。低 K 血症を悪化させるおそれがある。選べない。

となり、考慮すべき選択肢は 1 か 4 になる。しかし、④浮腫、倦怠感はこの時点で主観的な訴えであることや『薬剤の副作用はまず原因薬剤を中止する』の原則からいっても薬剤追加型選択肢の 4 は選べない。なので、消去法でいっても 1 になるはず。。。ですが、前途ある薬学部生は、お受験テクに走らず、きちんと勉強しましょうね !(^^)!


んー、なんですが、この問題はちょっと違和感がある。問題自体を批判するというわけではないし、むしろ、この手の実践問題を出題する意義は十分認めているんですが。。。。なんだろう、この違和感???

言葉にすれば

「人によっては変な感じを持つかもしれない。原因は ① 現実的にこの状況がおこりえるのかという問題設定、その上で ② 医師-薬剤師間のコミュニケーションが妥当かという点」

でしょうか。

①に関しては

「設定的に肺がんを外来でフォローしているようだが、これは医師の中でもそれなりに技術・経験を持った医師しかやらない。そのような医師が、これほど見え見えの副作用を見逃すことがあるだろうか? この処方内容だけみたら、むしろ、何らかの事情で、グリチルリチン酸製剤が外せず、低 K 血症の補正が必要な患者さんなんだろうなあと思ってしまう」

という感想を持った。その上で、②に関しては

「ぱっと見、不自然な処方を二か月近く続けているわけで、実際的には、こういう場合、何らかの理由があると考える方が自然。ある程度臨床慣れした人なら、職種に限らず、まず、患者さんからの情報収集を試みるのが自然じゃないかな。例えば、どういった経緯で外来フォローになっているのか?とか、肺がんの進行度はどの程度なのか?とか。細かいことでいえば、下痢や嘔吐はしてないか?とか(筆者注‥これで、消化管からの K の流出をチェックする)。薬剤師だからといっていきなり主治医に対して処方提案するのはちょっと現実的じゃないかも」

という印象を持った。

 

猪股弘明(精神科医)

なお、facebook の『薬剤師に必要な基本的臨床医学知識を研究・実行する会』というところで管理人をやっています。もともとは大八木(秀和)先生が「これから臨床現場に出る機会が増える薬剤師さん向けに臨床で役に立つであろう知識・体験などをディスカッションする」目的で始められたネット上での勉強会ですが、大八木先生の体調が思わしくなく、暫定的ですが、私が管理してます。参加は、原則、薬剤師・医師に限られますが、興味のある方はどうぞご参加ください。