ORCA, OpenDolphin, OsiriX は三種の神器だったのか?

– ORCA, OpenDolphin, OsiriX は三種の神器だったのか?

ある時期まではそうだったと思う。具体的には 2010年代前半あたりまでは。

ORCA(オルカ) というのは、日本医師会が主体となって開発が進められたレセコンソフトで、その当時はこれ一台で診療所レベルならば会計から保険(電子)請求まで用が足りてしまった。ただし、操作性には若干の難があり、現実的にはオルカと連動する電子カルテと組み合わせて用いられることが多かったと思う。OpenDolphin (オープンドルフィン)は、その代表格で 2013 年前後はかなり導入されていたようだ。OsiriX (オザイリクス)は、ご存知、DICOM ビューアだ(簡易な PACS 機能もついている)。当時はかなり安価に入手できた。

当時は、どれもオープンソースでソースコード自体が「一般」公開されていたので、スキルとやる気さえあれば自前でインストールできて、よほど凝った使い方をしなければ、クリニックでの自力運用も可能だったように思う。レセコンソフトとそれに連動する電子カルテと画像ビューアがほぼ無償で手に入ったのだ。新規に開業する医師にとっては、非常に心強いものであったと思う。

これはそれ以前の状況と比較するとわかりやすいと思う。

ORCA 登場以前は、メーカー製レセコンや電子カルテは「5年で300万」くらいが相場で、クリニック経営上はかなりの負担になっていた。画像ビューアは、若干事情が違っていて、そもそも OsiriX あたりに相当する製品はなかったように思う。病院の放射線科で画像診断に使われるようなビューアとなると軽く100万は超える。小規模なクリニックだと、「外部で撮像された画像をチェックする」程度しか使わないので、そういうメーカー製ビューアは明らかにオーバースペックだ。

だから、ORCA-OpenDolphin-OsiriX というのは、それぞれが強力なツールだったし、三つあわせれば非常に「頼りになる」枠組みだったのだ。

では、現在ではどうだろう?

まず、OsiriX だが、現在でもオープンソース(OpenSource: OS)版は開発されているとはいえ、OS バージョンをそのままビルドしても商用版の OsiriX MD になるわけではない。だから、現在のプロジェクト自体を以前の OsiriX の延長と考えるのは無理があるだろう。実際、各国で医療機器としての承認/認証を受けていることからわかるように、「医療機関向けの医療用ソフト」にコンセプトを変えたと見る方が妥当だろう。
病院勤めの臨床医/研究医がお手軽に OsiriX で患者さんの画像をチェックするというような使い方はもうできないと思う。

次に OpenDolphin だが、いわゆる「本家」の開発元が2020年上半期に LSC(ライフサイエンスコンピューティング)から medley(メドレー)に移った。
メドレーは、
・クラウド版を重視
・オープンソースとしてのプロジェクトという認識が希薄
なようで、今後は dolphin-dev の github リポジトリのソースコードが更新されるというのはちょっと期待できない感じだ。実際、OpenDolphin は開発の経緯もあるためだろうかメドレー自体「オープンソースである」とは明言していない。
(→結局、LSC での販売も正式に終了し、メドレーも普及させる意図はないようなので、実質、この系列からの商用版の利用はできくなったと考えてよいでしょう)

最後に ORCA。これはオープンソースであるが、開発言語やミドルウエアなどが独特で、ソースコードからビルドして使っているという医療関係者はほぼいなかったと思う。そこにきて、オンプレミス版(クラウドタイプではなく、院内 LAN でローカルで走らせるタイプ)が一部有償化されてしまった。医療機関で新規導入をはかる際には有償契約がほぼ必須だろう。
やはり、これも「ちょっと使ってみる」といった使い方はできなくなったように思う。

だから、これらソフトは、現在としては 2010年代前半のように「これ使ってれば間違いはない」といったような、絶対的な存在ではなくなったように思う。
最初の問題提起に戻ると、ORCA-OpenDolphin-OsiriX という枠組みはもはや「三種の神器」とも言えるほど特別な存在ではなくなった、というのが私なりの感想めいた結論だ。

 

猪股弘明(医師:精神科:精神保健指定医
OpenDolphin-2.7m, HorliX 開発者

⭐️ 参考
OsiriX Lite の現在
ORCA
OpenDolphin-2.7(m) と ORCA について
OpenDolphin について
OpenDolphin と電子カルテの3要件とメドレー
OpenDolphin -wiki 風解説-

ORCA, OpenDolphin, HorliX

所要とはいえ ORCA日本医師会がソースコードを公開、配布しているレセコンソフト)とOpenDolphin(電子カルテ。これもオープンソース) と準備してきたので、HorliXHoros/OsiriX ベースの画像ビューア。オープンソース) も起動。
特に深い意味はないんですが。

いや、しかし、壮観ですな。

一台の Mac の上で動いているってのにちょっと感動してます。


 

ところで、OpenDolphin・HorliX は、精神科医の猪股弘明先生の開発したバージョンを使ってます。

OpenDolphin

OpenDolphin は、オープンソースですから、当然、派生バージョンは色々とありますが、OpenDolphin-2.7m (今回、試したバージョン)は本家(dolphin-dev)に割合忠実です。これにはそれ相応の理由がありました。
OpenDolphin について』、『OpenDolphin と電子カルテの3要件とメドレー』あたりがわかりやすいでしょうか。開発者本人がその経緯を語っています。

私も今回 OpenDolphin に触れてあれこれ感想を持ちましたので、機会があったら何か書いてみたいと思います。

HorliX

画像ビューア HorliX に関する使い勝手などに関しては『COVID-19 による肺炎CT画像!<HorliXにて表示>』(精神科医高木希奈先生のアメブロ)に動画入りで紹介されていますので、そちらもご参照ください。

ところで、先生、最近、ブログで

HorliX と薬機法

という法律ガラミにしては?面白い記事を書いているので、こちらもよかったらどうぞ。

ORCA

ところで ORCA に期待(懸念?)されていることは、本当に今の設計のままで意味のあるクラウド化ができるのかってことですが、これも猪股先生、一つの提案をしてくれました。

将来的には医療情報の類はクラウドに上げて一元管理・ビッグデータとしての活用を図る・・云々みたいな話は、まあそうだろうなとは思うのですが、このとき医療機関側が欲しい情報を取ってこれる環境になっていないとデメリットの方が大きく、実際には誰も参加しないだろうなと思います。
(法的にも医療情報の管理責任は、現状だと医療機関側です。業者ではありません)
欲しい情報を効率よく取ってこれるかどうかは、データ構造の整合性に大きく依存するのではないでしょうか。
これを実現する割と有効な選択肢は現在だといわゆるウェブフレームワークの採用かなと思ったわけです。

オルカの職人芸的なデータベースの使い方も嫌いではありませんが(笑)、この後の展開を考えるとなるべくデータ間の「辻褄が合うように」整合性をはかっておく、モデル化しやすいように準備しておく、というのはあっていいのかなと思った次第です。

メーリス上で議論され、最終的には ORCA管理機構の人に「フレームワークの採用も検討してまいります」とまで言わせしめました。→結局、ORCA 管理機構、独自にウェブフレームワークを開発して、WebORCA をリリース。

また、最近では、ORCA のデータベース(PostrgreSQL)から直接データを抜いて、各種指標を加工する方法を提案しています。猪股先生ご自身が『ORCA の日計表と関連テーブル・内部会計フローなどについて』にまとめてくれています。

 

ANN2b

 

HorliX -wikipedia 風解説- にまつわるあれこれ

HorliX という医療用ビューアがある。

HorliX の作者が知り合いの先生(猪股弘明先生 精神科医 フェイザー合同会社)なので、告知的な意味合いもあって、wikipedia に簡単な解説を書いたことがある。が、最近になって wikipedia が荒らされまくり、とてもまともな記載ではなくなっているので、私が最初に書いたくらいの分量・内容でとりあえず当サイトに wikipedia っぽい何かを書いておきました。

HorliX -wikipedia 風解説-

 

(注)確かに私も関係者(当サイトの元は phazor.info 内の裏ブログ)なので wikipedia が目指すように中立とはいかないでしょうが、なるべく客観的な記載を心がけていきます。なお、wiki のマイナー項目(研究よりの記事など)は、その領域の研究者自身が寄稿している場合が多いです。

ところで、その wiki ページ、どこからともなく荒らしがワラワラと湧いてきて、一時期、運営からページが削除されてました。

まともな訓練受けてないとかっちりとした文章ってなかなか書けないんだよね。文章を書くスキルがないためか質の悪い記載をして、運営から待ったがかかったわけです。
このとき、書き込んでた者の一人がこの人。

IP アドレス=218.42.147.86。調べると

システムクラフト(広島県三原市。代表取締役:杉原 利彦氏)という会社のようですね。

また、このシステムクラフトという会社、和歌山の増田内科の増田茂医師の OpenDolphin-m という電子カルテを取り扱っている。

その増田氏、病院公式HP内に特定の個人を誹謗中傷する内容を作成し、厚生労働省から削除要請を受けたとか。また Twitter でも精神障害が疑われる一般人の個人情報を流出させ、これも担当保健所から削除要請を受けた(こことかこことかこことか・・・最初、目を疑いました)。医療人の倫理としてどうなんだろうと疑問に思う(→結局、増田内科は閉院になったようですが。。。)。経緯からして著作権法違反の疑いも濃いしね。

あとは、OpenDolphin-2.7m(これも前出の猪股弘明先生開発) がご自分のカスタマイズ版の直接 Fork だと勘違いしていたが、これは完全に事実誤認(私も機会があって本家版と OpenDolphin-2.7m のソースコードを比較したが、OpenDolphin-2.7m は本家版ベースで bug fix とカルテ記載内容の外部書き出し機能を追加したもの。もう開発ポリシーからして全然違う)。

開いたイルカ』や『「いるか」の都市伝説は本当だったか?』や『「開いたイルカ」再び』などもご参照のほどを。

ANN2b

(追記)好評のなようなので、Horos 編と Orthanc 編もつくりました。
(追記2)ORCA 編も作成。
(追記3)OpenDolphin 編も作成。
(追記4)ところで air-h-128k-il 氏は horos の正規contributor。

北極圏コード貯蔵庫コントリビューター -Arctic Code Vault Contributor-

horos プロジェクトに関しては、日本語リソースの提供より ROI 関係の貢献の方が重要度高いでしょう。

Donuts とは?/電子カルテランキング

Donuts

ネット x 医療 だと、メドレーとかメディカルノートが有力なプレイヤーとみなされていたと思うのだが、この(2018年のこと)7月から新たなプレイヤーが意外なところから現れた。

そのプレイヤーは Donuts (日本語表記がドーナッツなのかドーナツなのかわからなかったため、ここではドーナツで統一)。彼らが7月にリリースしたのは、クラウド型の電子カルテ CLIUS (クリアス)。

電子カルテ自体は、医師免許活かしてサンプルでももらってそのうち評価したいと思うが、面白いのはドーナツがもともとはゲーム製作会社だということ。現に今も会社のスローガンは、Change the Game である。

ドーナツは、早稲田理工修士卒の西村啓成さんと東京工業大修士卒の根岸心さんが DeNA を経て 2007 年に設立。主にゲーム関連事業で成長、2015年から労務管理ソフト、ジョブカンをリリース。そして、今年の 7月にクリアスをリリースするに至った、というわけだ。

ふうっ。

キリンゼロが出てきた時も驚いたのだが、今度はゲーム関連からのヘルスケア分野進出ですか。もう、これは何が出てきても驚きませんね、私は。

 

(追記)最近 -2020年8月- だと、ブースターテクノロジーさんというところが会社ブログの記事『電子カルテシステム「OpenDolphin」を使ってみる』で、OpenDolphin の構成を評価した上で、「サーバーサイドはJavaである必要はなさそう」、「クライアントアプリケーションもJavaのデスクトップアプリである必要はなさそう」ということで「ブラウザで使える普通のWebシステムに」作り直せばいいのではないか?というようなことをいっている。
スクリプト言語のフレームワークを用いたブラウザ閲覧タイプという路線でしょうか。十分ありだと思いますね。

 

電子カルテランキング -2018-

ちょっと気になったので電子カルテのランキングも調べてみた。

出典は、m3というサイトでの 2018 年 6 月までの資料請求などの閲覧数。

1位 デジカル(デジカル)

2位 Dynamics(ダイナミクス)

3位 Medicom-HRV(パナソニックヘルスケア)

4位 カルテZERO(きりんカルテシステム)

本当は10位まで公表されているが、全公表は問題ありそうなので4位まで。

でもこれだけでも大雑把な傾向はわかる。

人気なのは、定番の電子カルテクラウド型。正直、この傾向は数年前から続いていると思う。実際の医師は新規なものを求めているわけではないことがよくわかる。

実際、購入後の満足度調査でも同様の傾向がみられる。医師は定番の電子カルテの安定性を追い求め、購入後、それを確認して満足しているのだ。

さて、CLIUS ら新規製品はどの程度、この市場を攪乱できるだろう?

 

(追記)余談になるが、OpenDolphin というオープンソースの電子カルテが人気を落とした理由はこれだろう。軽い解説記事書いたので追記。
オープンソースなのだから、コードの隅々まで商用開発元が熟知しており、少々難しいカスタマイズも難なくこなしてくれる・・・と期待しがちだが、実際の運営はこれとは真逆だったからだ。むしろサポートがイマイチという声の方が多かったくらい。マニュアル本のアマゾンレビューでも手ひどく批判されている。


一時期、人気ランキングでも上位にきたが、その後、失速したのはこれが原因の一つだろう。公称では、導入数500を謳っていたが、実稼働は200程度と言われている。
結局、長らく商用版を開発・販売していた LSC(ライフサイエンスコンピューティング)は、メドレーに事業を譲渡。
だが、これとは並行して、自力運用は盛んに行われていた。現在でも、カスタマイズ・ドルフィンが稼働している施設は多いと思われる。


(追記2)かつて OpenOcean と呼ばれていた猪股版 OpenDolphin がひさびさに実戦投入される予定。ファイルバックアップシステムに加え、データ抽出ツールも再ビルド


なお、こちらのバージョンが某商用クラウド型 OpenDolphin のベースになっているのは、けっこう有名な話。

 

データ書き出し機能を最初に実装したのは OpenDolphin-2.7m じゃないか?

ところで、最近(2021 冬) ORCA のユーザーメーリングリストで「ORCA 連動型の電子カルテで何がいいか?」という話題が出た。

コスパ面と技術構成(ORCA なしでも運用できる)からデジカルがけっこう評判よかったようだ。

次点くらいの感じで(上で取り上げた) CLIUS もそこそこの支持を受けていた。
ユーザーの要望が反映されやすい開発ポリシーになっているようだ。
例えば、よく問題になる「データの囲い込み」に関しても

◦ 自院のパソコンにバックアップが可能な点
 これを一番要望しており、今年実現しました。PDFファイルでのカルテバックアップはよくあるのですが、CLIUSは自院のパソコンにJSONでバックアップが取れるので、カルテデータを人質に取られる懸念が少ないです。(山崎産婦人科の山崎健太郎先生の投稿より

といった配慮がなされている。
ただ、(CLIUS がブラウザタイプのため仕方のないことだが)自院端末へのデータのバックアップには一手間かかるようだ。

ところで、医師、特に開業医さんならば、絶対に欲しいこの機能だが、最初に実装されたのは OpenDolphin-2.7m (OpenOcean)じゃないか?
(LSC版やメドレー版には実装されていない点には注意してください)
先ほど調べたが、GitHub に初登場した時点で既にこの機能は実現されていた。

業者ならともかく、これを「役立たず」と批判した「医師」がいるのは、なんなんだろうね。

 

AAN2b

 

 

にほんブログ村 ネットブログ ネット広告・ネットマーケティングへ
にほんブログ村 病気ブログ 医者・医師へ