薬剤師卒前教育は6年制に移行した。以前に調剤薬局ブログ向けに書いた記事をアレンジして再掲。
「今の薬剤師国試ってどうなってるんだろう?」と実際の国家試験の問題をざっと眺めてみました。いやあ、勉強しなければならないことが増えてるんですね (^^ゞ
薬学実践問題というのが目新しい。

おお、ゲフィチニブ。なんですが、問題はゲフィチニブそのものではなく、ゲフィチニブによって惹き起こされたと考えられる肝障害の対応に関する問題。『グリチルリチン酸の副作用ー偽性アルドステロン症』が頭にあれば、問題文にある低 K 血症、高血圧、浮腫の原因はグリチルリチン酸の配合錠と推定でき、選ぶべき選択肢は 1 とわかる。
仮にこれを知らなくても正解は導けそうだ。この症例のプロブレムリストを作成すれば
①非小細胞肺がん ②肝機能低下 ➂低 K 血症 ➂高血圧 ④浮腫、倦怠感
であり、この順番で症状が出現し、その都度、(②以下は対症療法的に)処方がなされている。その点を踏まえて選択肢を吟味すると、、、
1 →それっぽい。保留。
2 →低 K 血症を悪化させるおそれがある。選べない。
3 →降圧薬。高血圧といっても上が 160 程度。重要性は低い。
4 →K 保持性の利尿薬。それっぽいが、保留。
5 →ループ利尿薬。低 K 血症を悪化させるおそれがある。選べない。
となり、考慮すべき選択肢は 1 か 4 になる。しかし、④浮腫、倦怠感はこの時点で主観的な訴えであることや『薬剤の副作用はまず原因薬剤を中止する』の原則からいっても薬剤追加型選択肢の 4 は選べない。なので、消去法でいっても 1 になるはず。。。ですが、前途ある薬学部生は、お受験テクに走らず、きちんと勉強しましょうね !(^^)!
んー、なんですが、この問題はちょっと違和感がある。問題自体を批判するというわけではないし、むしろ、この手の実践問題を出題する意義は十分認めているんですが。。。。なんだろう、この違和感???
言葉にすれば
「人によっては変な感じを持つかもしれない。原因は ① 現実的にこの状況がおこりえるのかという問題設定、その上で ② 医師-薬剤師間のコミュニケーションが妥当かという点」
でしょうか。
①に関しては
「設定的に肺がんを外来でフォローしているようだが、これは医師の中でもそれなりに技術・経験を持った医師しかやらない。そのような医師が、これほど見え見えの副作用を見逃すことがあるだろうか? この処方内容だけみたら、むしろ、何らかの事情で、グリチルリチン酸製剤が外せず、低 K 血症の補正が必要な患者さんなんだろうなあと思ってしまう」
という感想を持った。その上で、②に関しては
「ぱっと見、不自然な処方を二か月近く続けているわけで、実際的には、こういう場合、何らかの理由があると考える方が自然。ある程度臨床慣れした人なら、職種に限らず、まず、患者さんからの情報収集を試みるのが自然じゃないかな。例えば、どういった経緯で外来フォローになっているのか?とか、肺がんの進行度はどの程度なのか?とか。細かいことでいえば、下痢や嘔吐はしてないか?とか(筆者注‥これで、消化管からの K の流出をチェックする)。薬剤師だからといっていきなり主治医に対して処方提案するのはちょっと現実的じゃないかも」
という印象を持った。
猪股弘明(精神科医)
なお、facebook の『薬剤師に必要な基本的臨床医学知識を研究・実行する会』というところで管理人をやっています。もともとは大八木(秀和)先生が「これから臨床現場に出る機会が増える薬剤師さん向けに臨床で役に立つであろう知識・体験などをディスカッションする」目的で始められたネット上での勉強会ですが、大八木先生の体調が思わしくなく、暫定的ですが、私が管理してます。参加は、原則、薬剤師・医師に限られますが、興味のある方はどうぞご参加ください。

